学会事務局補佐の経験から
松浦 弘明(東京大学)
2023年より白樫副会長のもとで学会事務局のお手伝いをしていますが, 事務局の特権のひとつは学会誌のバックナンバーに触れられるということです. 事務局業務で過去の会誌を手に取った際などには(学会の財産であり無用に触るのは慎むべきだと承知しているのですが), つい引き込まれて何冊も読みふけってしまいます. 過去の会誌を目にすると, まずその厚み, 記事の充実に驚かされます. 当時の思いを伝える貴重な資料というべき寄稿も多く, これらを読み返すと, 熱物性学会が様々な分野の大先輩方の熱意と並外れたご尽力によって確立され今日に至っていることが分かり, わたしたちの世代が当然のように享受してきた恩恵の大きさに改めて気づかされ, 感謝と尊敬の念が深まります.
私は長坂雄次先生(慶應義塾大学)の研究室で学部から博士課程までご指導いただき, 学位取得後は白樫了先生(東京大学)の研究室でお世話になっているのですが, どちらの研究室も長島昭先生, 棚澤一郎先生という熱物性・伝熱の巨人ともいうべき先生の流れを汲んでおり, 大変なご縁に恵まれた研究生活を送ってきました. 思えば, 学生時代に熱物性シンポジウムで学生ベストプレゼンテーション賞を頂いたことが博士課程進学のきっかけの一つになっており, 熱物性学会が無かったならば私の人生は全く違うものになっていたことでしょう. こうしたこともあり, 学会事務局の運営に3年間携わり, 少しでもお役に立てることができたならば大変嬉しく思っています.
この3年間は, 学会法人化に関する検討が具体的になるなど, 熱物性学会の将来に関して非常に大きな議論が行われた期間でした. 私も理事会・役員会に事務局として出入りさせていただく機会がありましたが, 理事の方々が, 会員一人ひとりのことを考えながら学会将来構想の検討に非常に献身的なご尽力をされているのを目の当たりにしました. こうした熱物性学会の先輩方の熱い精神を直接感じることは貴重な経験でしたし, また熱物性研究の将来を担うべき世代の一人として, 敬服するばかりでした. 実は理事会・役員会に当時1歳の息子や0歳の娘を無謀にも同席させ, 泣き声がハイブリッド会議で配信されるなど大変なご迷惑をお掛けしていたのですが, あたたかく受け入れて頂いたことについても心から感謝申し上げます. おかげさまで, 2人とも熱物性ハンドブックを持ち上げられるほど健やかに育っています.
熱物性に関わる実験の研究の魅力の一つは, 自然現象と対話しながら創意工夫を重ね, 系に内在された性質をうまく抽出することができると, 自然の真理に触れたような気持ちになれることだと感じています. そして, 得られた熱物性値は永年にわたって色褪せず, 生み出される測定手法は様々に応用されて最先端技術の発展に役に立つ可能性があるという無上の面白さがあります. その魅力を知った幸運な者の一人として, 熱物性研究を将来にわたり盛り上げていくことへの使命感を感じています. 2025年度より始動した科研費 学術変革領域研究(B)「生命現象を支配する細胞内ナノスケール熱環境の計測・理解・応用」では, 領域代表をつとめております. 熱物性・伝熱に関する計測を基盤の一つとし, 生殖生物学への応用も目指すチャレンジングなプロジェクトで, 今後の熱物性シンポジウムでも成果を発表したいと考えています.
編集委員長の熊野寛之先生から巻頭言執筆のお話を頂いたのは, 9月に現事務局として担当する最後の理事会を終えてひと安心していたときでした. 大変に驚きましたが, 学会事務局の運営補助を経験した者からの感謝の思いを記す機会として, 僭越ながらお引き受けすることにしました. 何を書かせて頂こうが考えている時間は, 学会と自分, 学会・熱物性研究の将来について考える非常に有意義な時間でした. 改めまして御礼を申し上げます.
